青森や岩手に残る民間信仰
青森や岩手にはオシラサマという独特の信仰があります。これは古い昔話に由来しています。
昔ある農家で飼っていた馬と娘が恋に落ち、それに気づいた父親が激怒し、娘がいないうちに馬を殺してしまいました。その事を知った娘が馬の遺骸にすがって泣く姿を見て父親は更に怒り馬の首を切り落としてしまいました。そうするとその首と娘は一緒に天に昇っていきました。
… 昔あるところに貧しき百姓あり。妻はなくて美しき娘あり。また一匹の馬を養う。娘この馬を愛して夜になれば厩舎に行きて寝ね、ついに馬と夫婦になれり。或る夜父はこの事を知りて、その次の日に娘には知らせず、馬を連れ出して桑の木につり下げて殺したり。その夜娘は馬のおらぬより父に尋ねてこの事を知り、驚き悲しみて桑の木の下に行き、死したる馬の首に縋りて泣きいたりしを、父はこれを悪みて斧をもって後より馬の首を切り落とせしに、たちまち娘はその首に乗りたるまま天に昇り去れり。オシラサマというはこの時より成りたる神なり。… (遠野物語69話)
遠野物語/山の人生 著:柳田国男 岩波文庫
後日父親の夢に娘が現れ、翌朝蚕が現れるからそれを桑の葉で飼育するように告げたところ、これが後に養蚕業として発展しこの地区の生活を支えることになったと言われています。
色々なバージョンがあるようですが、大まかにはこんなストーリーですのでオシラサマは家の神、蚕の神、馬の神など様々な形で信仰の対象となっています。
今も続く風習
御神体は大体の場合30cmほどの棒に布を重ね着させたものを二対でお祀りすることが多く、年に一回程度決まった日にどんどん重ね着させていきます。その際に一度解くそうですが、代々重ねてきた布を見てみると飢饉の年などは傷んだ布が着せてあったりと、歴史を感じることもできるそうです。重ね着をさせる日に女性が集まりオシラアソバセと呼ばれるお祭りを行う風習が今も一部の地域では残っています。
昔は各地にこのような土着の信仰や風習がありましたが、継承していくのが難しくなっている現実があります。時代の流れとともに形は変わりつつも、お祭りや神様を敬う気持ちは大切に残していきたいものですね。
ポッドキャストでは岩手県出身のナオコさんをゲストに迎え、オシラサマや座敷童など岩手県に残る伝承についてご紹介してもらっています。ぜひ聴いてみてください。